くらし支えるリハビリ
≫読売新聞 医療ルネサンスNo.5137 2011.8.5
◎回復後の機能維持も大切 Q&A
「維持期」のリハビリテーションについて、大田仁史・茨城県立健康プラザ管理者に聞きました。
―「維持期」というのは、どんな時期を指しているのでしょうか。
国は、リハビリを発症からの期間に応じて、発症直後の「急性期」、「回復期」、回復した後の「維持期」(回復期以降)に3区分しています。維持期は「機能の回復が見込めるのは回復期までで、その後は回復した機能を維持する期間」ということ。国は最近「維持期」のことを「生活期」と表現しているようです。
―維持期のリハビリはどうして必要なのですか。
病気の発症から時間がたっているうえ、取り組む人も高齢者が多いため、リハビリをしても必ず改善するとは限りません。
しかし、何もしなければすぐ悪くなるし、介護する人の負担も重くなります。年を重ねることで身体機能が徐々に落ちていくのはやむをえませんが、それを緩やかにするためにも、維持期のリハビリは重要だと思います。
―維持期のリハビリの現状をどうみますか。
維持期のリハビリは、現在、主に介護保険を使って行われますが、施設や地域によってサービスの水準に落差があります。
老人保健施設では熱心に行う所も増えましたが、療養病床のある病院、特別養護老人ホームなどではほとんど行われていません。
維持期の在宅リハビリは、老人保健施設などでの通所リハビリや、訪問リハビリという形で行われることが多いですが、地域によって訪問リハなどのサービスが充実している所と、まったくない所があります。
かつては市町村が「機能訓練事業」を行い、保健師が障害を持つ高齢者を訪問したり、集団でのリハビリ教室を開いたりしていました。しかし、2000年に介護保険制度が始まると市町村はほとんどこの事業から手を引き、地域格差が拡大しました。
―施設・地域間の格差にはどう対応すればいいのでしょうか。
障害を持つ人が暮らす施設には理学療法士や作業療法士ら、リハビリ専門職の配置を義務づけるべきだと思います。それが難しければ、せめて介護職がリハビリについて基本的なことを学び、運動を促すぐらいはしてほしいですね。
また、病院以外の職場で働くリハビリ専門職はまだ少ないと思います。病院である程度訓練を受けた専門職たちが、介護保険施設でのリハビリや訪問などに積極的に取り組んでほしい。
―「維持期」とは別に著書などで、「介護リハビリ」「終末期リハビリ」という概念を提唱されていますね。
寝たきりになったらもうリハビリは必要ない、という人もいますが、それはおかしい。床ずれができたり、関節が固まって手足が曲がったままになっている状態が人間らしいと言えるでしょうか。リハビリは人生の終わりまで行われるべきだと思います。
(針原陽子)
茨城県立健康プラザ管理者 大田仁史さん
(東京医科歯科大卒。茨城県立医療大教授、同大付属病院長などを経て現職。 リハビリに関する著書多数。)